トスバッティングの練習は必要あるのかについて
どのチームでも必ず行われるトスバッティングは日本の伝統的な練習法ですが、近年ではこの練習法は全くの意味がないという考え方が出てきています。従来より、相手にワンバウンドで正確に打ち返すことはバットコントロールの向上へと繋がると考えられてきましたが、この練習では試合中のスイングと異なり小手先での手打ちになる傾向があり、それでは効果が無いと言われています。
トスバッティングが不要かどうかについて考えていく前に、まずはこの練習は何を目的としているのかを肯定派と否定派の言い分を整理してみましょう。
肯定派は『バットコントロールを身につけるため』という理由が圧倒的に多いでしょう。ワンバウンドで相手に打ち返すという目的も、バットコントロールを意識してのことだと思います。極端に言ってしまえば、狙ってワンバウンドで打ち返せるなら試合でも狙って野手の間を抜くことも出来るのではないのか?という考えですね。
これに対してトスバッティング否定派は、トスバッティングでのスイングは当てに行く振り方で、試合でのフルスイングとは違うのだから何の役にも立たないという考えのようです。つまり、当てに行っているスイングで身につけたバットコントロールは、本番では役に立つはずがないということですね。
練習の目的が技術アップなのかセンスアップなのかを考える
バッティングが上手くなりたいなら、技術とセンスのバランスを整えることを常に忘れてはいけないというのは、このサイトでは一貫してお話していますが、トレーニングや理論についても『これは技術アップか?それともセンスアップか?』というように分けて考えなければいけません。
では、このトスバッティングはどうでしょうか?そのほとんどは技術練習を目的に行っている人が多いかと思います。
技術アップを目的に行っていると、どうしても当てに行くような小手先でのスイングが否定派には良く映らないのでしょう。『そんなスイングでバットコントロールは身に付かない』といった具合に。
肯定派は基本と称して行っている場合が多いので、まずバットでボールをしっかりミートしてヘッドが下がらないように意識。上から叩くように振り、相手にワンバウンドで返すという感じでしょうか?
確かにこの練習の目的であれば、野球を始めたばかりの選手にはちょうどいいかもしれませんが否定派の人が考えているように、実際の試合で使えるバットコントロールが身に付くかと言ったらかなり怪しいでしょう。
センスアップを目的とすれば練習の質が変わる
私が考えるトスバッティングのお勧めの練習方法はこちら
バットのヘッドを柔らかく揺することで、重心(芯)を身体で感じやすくします。そこから狙って芯で打ち抜くという練習。構えて振るという運動のイメージより、揺すってバットをミートポイントに置くというイメージで行うのがポイントです。
スイングを行うのが目的ではなく、小手先でのミート練習でもありません。重心感知能力を鍛えるのが目的ですから、打球の行方は気にしないで構いません。『強く振ろう・弱く振ろう』と考えるのではなく、あくまでも揺すって感じてミートポイントに置く。これがセンスアップが目的のトスバッティングの練習方法です。
同じ練習をしても効果が変わってしまう理由
こういう練習の目的を考えた時に私はあらゆることで思うのですが、結局は行う人の意識によって効果は左右されますよね。仮にイチロー選手が表面上では技術的なトスバッティングにみえる方法で練習を行ったらどうなるか?
- バットの重心を感知する能力を極限まで研ぎ澄まし芯に当てる練習になる
- 常に相手投手と対戦している状況を想定して行う練習になる
- 動きを緩やかにすることで全身のリラックス度をチェックする練習になる
- バットの扱い方の向上や上半身の柔らかな動きの確認になる
他にも、超一流選手なら無意識で出来てしまう動きは山ほどあるでしょう。
つまり、イチロー選手と同じトレーニングメニューやトレーニング器具を使用しても、こういった本質的能力(センス)に対する関心や意識が低いと、同じような効果は得られないということです。
一流のバッターは歩くだけ(ウォーキング系)でもトレーニングになってしまうというのはいい例ですね。こう考えていくと、イメージトレーニングなどでも意識の個人差があるように、実際に相手とガチンコで対決しなくても自分がそのバッティングで必要な要素を鍛えること、またそれらに高い質を求めていけば、すべて上達に繋がっていくというサイクルが完成します。
練習に対する考え方や概念をいかに覆せるかが上達の秘訣
『あの練習は意味がない』『あの練習はいま流行っている』『あの練習は●●さんが良いって言ってた』というように、多くの情報に流されていると『一流の選手は基礎ができているから…小学生にはまだ早い』と言うしかなくなってくるんです。大切なのは自分がどうあるべきか?方法論はその次に考えるべきです。
他人が行っていたからやるというのではなく、しっかり目的を持って練習を行うと迷わずにシンプルにかつ、経済的に上手くなることは出来ます。既存の練習方法だって工夫次第では技術でもセンスでも応用は可能ですし、本来あるべき姿というのは選手個人がそういうクリエイティブな練習をすべきなんでしょうね。
たとえば、同じ素振りをするとしても技術アップのためにフォーム固めを意識して行う方法もあれば、重心を感じるようにバットを正しく扱う事を意識して行う方法もあるわけです。
こういった工夫をしていけばバランスよく鍛えることが出来ますし、真新しい練習器具などを購入しなくてもしっかりバッティングは上手くなります。毎日の練習も、常にアレンジしながら自分の中で1つ1つ納得して行いたいところですね。