バッティングマシンにはどこまで行っても人間の“心”が無い
金沢市に本社がある西野製作所が人工知能を搭載したピッチングマシンを開発したそうですよ。その名も「PITCH18」です。タッチパネルで球速、球種、コースを設定・操作することができ、操作に合わせてボールの発射角を調整するそうです。気になる性能ですが、球速は80~160キロで調整可能で、球種は「ストレート」「伸びるストレート」「大きなカーブ」「小さなカーブ」「大きなシュート」「小さなシュート」など、なんと10種類も出来るようです。
他にも、ボールの回転速度をより細かく決められるシステムもあるみたいですね。開発者の西野十治社長曰く「ダルビッシュ選手の変化球や田中将大選手のストレート、斎藤佑樹選手のスライダーも投げられる」とのこと。少年野球時代にほとんどの方が思ったであろう正に夢のようなマシンです。お値段は約600万円らしいですが、これを使って高校生が練習したら「苦手な投手の球速、球種、コースを入力して、集中的に練習することも可能になる」ので打力が確実に上がりそうです。
技術が極限まで高まる打撃マシン
公立高校の野球部の予算の問題など導入する際の障害を抜きに考えた場合、こんなマシンが全国的に流行りだしたら間違いなくバッティング“技術”のレベルがとんでもなく高まるでしょう。何回でも同じ質で反復練習できるというわけですからこれを使用しない手はありませんね。ある意味算数ドリルのように出来ない問題を記号的に反復練習してしまうわけですから「ボールをバットで打つというスキル」はプロレベルまで高める事が出来ると思います。
ただ、ここが肝心なんですが、どんなに高性能なマシンで打ち込みを行っても面白い事に“それ”だけでは野球の試合で打てるようになるとは限らないんですよ。
圧倒的なスキルはセンスとバランスを補ってこそ威力を発揮する
私は色んな所で、バッティングの上達には「技術」と「センス」のバランスがどんな選手でも必要だと言ってきましたね。技術を一方的に鍛えても試合では統合力が問われるのでバッティングスキルのみでは成績は安定しないということです。高性能なマシンで打ち込みを行えばスキルは上がる。しかし、それだけでは打てない。
ボールを投げる投手が人間とマシンとでは越えられない壁が存在するという事です。「マシンのボールは死んでいるのでいくら打っても意味がない」このフレーズは野球経験者なら一度は聞いたことがあると思います。従来の打撃マシンでは、ボールの回転軸や回転数が人間のそれとは大きく異なり、いわゆる「キレ」や「伸び」という、スピードガンでは表示されない部分の再現が出来ないからだと言われています。
人間にあって打撃マシンにないもの
ん?いや待ってください。この人工知能を搭載したピッチングマシン「PITCH18」の売りはそれらの問題をクリアしていますよね?つまり生きたボールがいつでもホームグラウンドで練習し放題ということです。この事実は打撃マシン反対派の方もちょっと考えてしまいそうですね(笑)
ですが、どうしてもボールを投げる投手が人間とマシンとでは越えられない壁が存在します。
まず何といってもマシンには心がないんです。当たり前ですがこれが実に面白い。人間の動きというのは何もないところからポンと生まれるわけではないんですよ。必ず「意・気・体」という流れで動作が生まれるんです。
たとえば、侍が真剣勝負で斬りあう場面では、最初に殺“意”というのが生まれます。次に殺“気”が生まれる。そして身“体”が動き、斬り動作が生まれる。
ピッチングでいえば、最初に相手を打ち取ろうという意識が生まれる。次に相手を打ち取る気が生まれる。そして身体が動きピッチング動作が生まれる。これらが試合の成績を大きく左右してるわけです。ですからたくさんいますよ。すでにヒットが打てるスキルを持った選手は。小学生からプロ選手までめちゃくちゃいます。
練習の目的によって上手に打撃マシンを使いこなす
打撃マシンがすべて悪いということを言いたいのではなく、バッティングスキルとバッティングセンスが釣り合っていない選手が多すぎるということ。マシンは文字通り機械的に「体」のみであり、意・気・体という順番ではありません。しかし、「ボールをバットで打つというスキル」は野球の試合を行うならプロレベルまであったにこしたことはありません。というより上を目指すなら必須の能力です。
その上でセンスをバランスよく鍛えていく。私が、打席ではただただ相手を打つことだけ考えている打者が最も強いと言っているのは、打席で強く思えば誰でも打てるという意味ではなく、前提としてそのセンスに見合ったスキルがあることが絶対条件という事です。
「意・気・体」の流れは野球の練習ではあまり見かけませんのでイメージがわかないかもしれませんが、こういったバランスを整える事を第一に考えたのがセンストレーニングです。今回紹介した高性能打撃マシンの出現により、我々指導者は「打撃マシンは技術を上げる目的に使う。人に投げてもらう時はセンスアップ目的に行う」とった使い分けが求められますね。今回はここまで