押し手の「突き」を強化する簡単な練習法
バッティングの質問で最も多いのが「打球が遠くへ飛びません。どうすればいいでしょうか?」です。私はこの質問には必ず押し手側、つまり捕手側の「突き動作」の弱さを指摘します。打球を遠くへ飛ばすための筋力的な問題は第二義的要素ですからこの場合は関係ありません。今ある身体で最も効率よく打球を飛ばす方法は何か?という部分が問題になるわけです。
そこで重要になるのがスイング時の突き動作の「深さ」と「鋭さ」です。これは日本人選手が苦手とする動作でもあります。(動作的に苦手という意味よりはチームの環境がそれをさせてくれないという意味の方が強いです)今回はそんな突きを手軽にトレーニングできる方法をいくつか紹介します。簡単ですからぜひ取り入れてみてください。
トンボはトレーニング器具3種の神器の1つ
皆さんのチームにはグランド整備に使うトンボがあると思いますが、実はあれはかなり使える器具なんですよ。鉄の素材で作られていると小学生にはきついかもしれませんが、扱いやすい木製タイプですと「グランド整備をしながら練習する」ことが出来てしまう優れものなんです。すでに指導者用センストレーニング(有料動画)では「軸足の創り方」でトンボを使った、バッティングに不可欠なタイミングの取れる下半身のトレーニング法を紹介しています。そして今回ご紹介する方法は下半身のトレーニング方法ではなく上半身です。私は主に投手へ指導していますが、バッティングでも肩甲骨と肋骨の間(肩甲胸郭関節)をトレーニングするのに大変優れた方法です。
トレーニングのやり方
身体の胸側へ肩甲骨を押し出すようにトンボを動かします。(画像では右打者の突き)この時、小手先で動かすのではなく、肘はスッと伸ばし、指先から肩甲骨まで1本の軸を通します。そうすることで肩甲骨と肋骨の間の部分でトンボを操作している感覚がわかってきます。この感覚を大事にしてください。
肩甲骨周りを使って行う方法は効果的!
もう1つのやり方は横バージョン(画像では左打者の突き)です。こちらは「3週間でバッティングセンスを上げる(有料動画)」に収録している「スープ作り」というトレーニングがベースです。トンボを使って負荷をかけたアレンジですね。とうぜん正しいやり方で行わないと意味がないので、ここでは深く解説しませんが、この方法はごまかしが効かない分、しっかりできれば効果は高く肩周りの使い方が非常に綺麗になります。
クロスする方法は難易度が高く上級者向け
飛距離を出したいなら小手先でごまかしてはダメ!
普段グランド整備を行うやり方では、肘から先で主に動かしますが、これは確かにトンボが扱いやすいやり方です。が、この動きをバッティングでやってしまうと圧倒的な「パワー」と「スピード」が足りなくなってしまうんです。センスの無い選手が肘やスナップを利かせていると、肩甲骨や肋骨といった部分の動きがどうしても死んでしまう。だから、意識して使っていかないとスイングしたときに突きが深く入っていかないわけです。
もちろん、このトレーニング法は体力的にきつい方法ですので、いきなり肩甲胸郭関節のスライドのみでグランド全体の整備を行うというのは無理でしょう。少しずつ、範囲を広げたり、バッティング練習した後の自分の足場を均すなど限定する方法から始めてみてはいかがでしょうか。
腕を動かせば即トレーニングになる身体
これはあらゆる事に言えるのですが、週末にあなたのチームで野球の試合を行うのは私ではありません。多くはあなたやお子さんが行うんです。私の身体がたとえどんなに優れた動きができても打つのは私ではありませんよね。何が言いたいのかというと「普段使っている身体はそれ以上でもそれ以下でもない」ということです。
あなたやお子さんの肩甲胸郭関節がガチガチに固まっており、普段から低次元な動きしか必要ない環境で生活している場合、やはり試合でいきなり“深い突き”が入ることはあり得ません。これは「フォームを○○理論の□□打法に変えてみたんだよ」といった類の話ではありません。それ以前の話ですね。さらにいってしまえば野球どうこうの前に日常生活でも、もっと高いパフォーマンスを行っていなければいけないわけです。身体の奥は意識して使わなければ使えないわけですからね。
こういった状態を打開するには「腕をちょっと動かすだけでも、それがトレーニングになってしまう身体」が必要なわけです。センスのある選手はそういったベースがあるから良い動きが出来るんですが。でも、これを普段から絶えず意識するのは苦難ですよ。「この動きは肘を若干ゆるめ、肩をせり出し・・・肩甲骨と肋骨のスムーズ感が足りないな。今度は手首が緊張してきた。もう一度、手首、前腕、肘、上腕、肩・・・」まぁ無理ですね。授業中こんなことやっていたら先生の話が一切頭に入ってきません(これを読んでいる学生諸君はそれでなくても入っていないのかな・・・???(笑))
何も考えず行うだけなのがセンストレーニング
何も考えずに身体の奥がしっかり使えるようになる・・・それがセンストレーニングですね。私がセンストレを考案する際に一番に気を付けていることはもちろん安全や効果というものですが、同じくらい大切にしているのが小学生でも簡単に出来てしまう動きで、やり込むとどんどんハイレベルな動きになってしまう方法という部分です。これに加え「何も考えずに行うだけ」というシンプルさを追求するわけです。
理論は難しい事をだらだらと述べますが、グランドじゃ何も使えない(笑)打つのは私ではないから。あくまでもあなたやお子さんの身体がセンスのある身体に変化しない限り上手くはいきません。これはよく覚えておいてください。やるべき事は表面上のバッティングフォームの修正や筋力トレーニングではなく「今現在の身体で何ができて何ができないのか?」を考え、足りない部分を補う事!まずはそれからです。