短期間で上達させるために知っておきたい理論
野球でいうセンスとは「重心感知能力」と「身体の奥を駆使した動作ができる」という事とセンスのメカニズムでも解説しました。では、実際にバッティングでセンスを感じるとはどのような動作を意味しているのでしょうか?今回はより具体的にお話していきますので、バッティングで悩んでいる人向けの記事となります。また、各章の終わりにはセンストレーニングも掲載していますのでぜひ参考にしてください。
ヒットを打つ極意~バットという道具に隠されたヒミツ~
みなさんはヒットを打つには何が必要だと思いますか?スイングスピード?パワー?集中力?人一倍の努力!?・・・もちろん、これらはすべて正しいですよね。でもヒットを打つ”極意”となるとどうでしょうか?ヒットを打つコツやテクニックなどはいくらでも思いつくと思いますが、ヒットを打つという運動の極みとなるとなかなかわからないのではないでしょうか?野球センスアップ専門家の私はこのヒットを打つ極意を「芯」だと思っています。意外でしたか?野球に自信のある方はもっと具体的な技術を思い浮かべていたと思います。
私もそういった細かい高度な技術を研究していた時期もありました。ですが、答えは見つからなかったんです。結局どれもこれもその場限りのコツや一過性のテクニックで、本質的な力とまでは行かなかったんですね。それには明確な理由があります。まずバッティングという競技はみなさんもご存じの通りバットという道具を使わなくてはいけないんですね。ここがもっとも重要かつ野球界の盲点となっていたのです。
バットにはとうぜん理由があってあのような構造や形をしているんですよ。それはやはりヒットを打つために作られているんです。誰も打てないような構造や形状だったら流行るはずもないですから、いまごろ私もあなたも野球という競技には出会っていないはずです。
しかし何十年も同じ構造や形状であり続けるということは、ヒットを打つのに適した道具であるという事実なんですね。
では本題です。なぜ本来ヒットを打つことに適した道具なのに、ヒットが打てない選手がこんなにも多いのでしょうか?あなたが使っているバットだけ違う!?そんなことありませんよね。じつはこのバットという道具は扱い方を1つ間違えると最悪な道具へと一変してしまうのです。その扱い方は2つのタイプがあります。
「自中操」というバットの扱い方
まず1つ目の扱い方は自分を中心にバットの重心を動かしていくタイプです。
グリップを中心にバットヘッドを操作した自中操の例。
一般的にこの手首で返す動きが指導される。
結論から言ってしまいますが、この自中操こそがヒットが打てない原因です。こういった対抗的操法(ヘッドの重みに対抗して力で制御しようとすること)を行うと、ヘッドの重さが自分にダイレクトに返ってきてしまい、とにかくバットが重くなってしまうのです。試しに図のように動かしてもらうとわかると思うのですが、ふり幅を大きくすると逆に戻す時(右に振ったら左に振り戻す時)にかなり時間がかかってしまいますよね?自ら出力するエネルギーも相当必要になります。
これは、片手でも両手でも、バットを垂直に立てても水平に寝せても同じことですね。グリップを固定すればするほどバットは重くなる一方です。これが実際のバッティングでは何に相当するかというと、遠回りや大振り、振り回されていると表現する現象です。実際にバットを逆に戻す時に「(右)グッ、(左)グッ」といちいち止まってしまい加速に時間がかかっていますよね?
こういった打者に指導者はどういう指導をしているのかというと、『短く持ってコンパクトに上から叩け』です。この指導がすべてを狂わせるんです。ここに指導者間で矛盾が生じてしまうんですよ。
多くの指導者の矛盾は指導者自ら答えを出している
指導者が短く持てと指導するということは、ある意味では直感的に気付いているということです。対抗的操法を使うと絶対にバットは遠回りして身体が小さい選手は振り遅れるとういうことを。そこで指導者の選択肢は2択になるんです。
- 短く持ちなさい
- 振り負けないようにリストを鍛えなさい
じつは、この選択肢の狭さが自体がナンセンスです。なぜか?短く持とうが、リストを強靭にしようが、バットを持って自分の身体で操作する以上、本質的なメカニズムは何一つ改善されていないからです。
どんなに短く持とうがバットの扱い方が自中操である限り、どこまで行っても自分にヘッドの重さがダイレクトに返ってくる。つまり振り遅れる現象は変わらないということ。ここはもうちょっと解説しましょう。
まず、振り遅れるという現象を整理します。振り遅れるとは認知から駆動までの時間とインパクトの瞬間にズレが生じることを指します。簡単に言ってしまえば、打ちたいボールに『来たっ』と反応して、振ろうとしたら間に合わなかったという状態ですね。
ここで重要になってくるのは、インパクトの瞬間…では無いんですよ。インパクトに重点を置くとどうしても反応してからインパクトまでの時間にズレが生じてしまい、イタチゴッコが始ってしまうんです。ではどうするか?
速いボールに振り遅れるメカニズム
反応してからインパクトの間にどうしてもズレが生じるなら、もっともっと手元までボールを引き付けて、ギリギリまで「これは打てるボールなのか?打てないボールなのか?」を見極めればいいんです。そうすれば誤差は必然的に少なくなってきます。
ただ、必ずここで問題が発生しますね。「そんなにギリギリまで見極めたら間に合わないんじゃないのか」はい。間違いなく間に合わないでしょう。先ほどの原理を実際に行ってみた方は体感としてわかると思いますが、自中操の対抗的操法では絶対に間に合いません。
インパクトにあまり重点は置きたくない。なぜなら、そこに合せれば合せるほど予測を裏切られやすく、インパクトに誤差が生じやすくなるから。代表的なのがバッティング指導でいうところの「ポイントをもっと前にしろ」というやつです。前におけばおくほど反応からインパクトのポイントまで時間が掛かりますからその分ボールの変化に対して誤差が生じるわけです。
この赤いゾーンが広いほどボールの変化に対応できなくなり誤差が生じやすい。
じゃんけんの先出し状態と考えるとイメージしやすい。
かといって、ギリギリまで待つと自中操ではいくらコンパクトに振ってるつもりでも時間がかかってしまい振り遅れる。
この緑のゾーンをできるだけ狭くしたいのだが・・・
これが、ヒットが打てない自中操のスイングです。もちろん自中操がすべてバッティングで使えないというわけではありません。ただセンス理論初学者の方には混乱を招くだけですので、いまは自中操は使えないんだなという認識で構いません。
「バット中心操」というバットの扱い方
2つ目の扱い方はバットの重心を中心に自分が積極的に動いていくタイプです。
ヘッドを中心にグリップを急激に横へ引く
すると芯は自由軸落下により勢いよく真下へ落下する
この扱い方こそバットを効率よくスイングする方法です。これならバットの重みが自分に返ってくることがないので、打てるボールと認知してからスイングを開始する駆動までの時間が極端に短くなるわけです。ちなみにこの動きは何も垂直方向だけではありません。水平だろうが、構えたポジションだろうが、バットと自分という関係が成り立っている以上、すべてこの操作は可能になります。
さらにこの扱い方は、道具の重心を認識していればいるほど行いやすくなります。重心に対してどう動かせばいいのかがハッキリわかるからですね。また、バットの重心がわかるという事は芯にボールを当てる能力も、認識していない打者より遥かに高いはずです。バッティングセンスを感じる打者はバットコントロールに優れていますが、道具の重心を上手に制御できるということは、センスに直結していると考えています。
それでは、このヒットを打つための道具を最大限生かせる「バット中心操」という扱い方が、いかに優れているかを解説していきます。
200本安打を可能にする究極のバット操作
バット中心操の優れている点は、まず、何といっても先ほどの自中操のデメリットが一発で解消されることです。反応してからインパクトの時間を極端に短くできるんですね。従って「ギリギリまで待ってボールを見極める」ことが現実的に可能になるということです。バッティングは反応してから駆動するまでの時間が重要になると解説しましたが、自中操はここで時間がかかってしまうから振り遅れるんです。
対抗的操法では加速に時間を要するため、どうしてもポイントを前に置くしかないんですよ。ここに指導の矛盾が生じるという解説でした。これに対してバット中心操は何が凄いのかというと、打てると反応してからスイングする駆動までの圧倒的な早さです。イメージ的には…
打てるボールが「来たっ」→でもまだスイングを開始しない→ギリギリまで我慢して見極める→「じゃそろそろスイングしますか?」→ぜんぜん間に合うって感じです。
イチロー選手はポイントを前に置いていますが、同時に後ろにも置いています。これは、反応から駆動までの圧倒的な早さから生まれる時間的余裕による産物ですね。もちろんイメージで説明しましたので、こんな事をいちいち考えてスイングしているわけではありませんよ。ただ、バット中心操でバットを扱う事ができると、こういったインパクトゾーンの操作を自由にできてしまうということは確かです。10年連続で200本を打つには、こういった引き出しがいくつも無いと不可能なのでしょうね。
実際に起こる現象の点からもいくつかメリットを挙げておきましょう。みなさんがよくやっているマスコットバットの素振りです。重いバットを一生懸命振り込むと振り負けないスイングができるというドラゴン○ールのようなお話です。
ここまで読んでメカニズムを上手く整理できた人はすでにお気づきですね。自中操でいくら振り込んでも筋肉は付くかもしれませんが、スイング自体は本質的には何一つ変わっていないということ。重いバットから軽いバットへ変更すると一時的に軽く感じますよね?でも、反応から駆動までの時間、つまり加速のシーンに時間を要しているという事実は何一つ変わっていないんです。イメージとしては助走しないとトップスピードへ持っていけないといった感じですね。だからマスコットを振り込んでも打てないんですよ。
打ててしまう選手は間違いなくバットの扱い方、つまり道具の重心を知っているという選手ですね。勘違いしないでいただきたいのは、私は素振りを一生懸命行って努力している選手をバカにしているのではありません。むしろ努力をしないと絶対ヒットは打てないと思っていますからね。そうじゃなくて「重いバットをさらに重く感じるように扱っている」スイングでは、いくらバットを振り込んでも全く上達しません、ということです。
これは余談ですが、小学3年生にバット中心操のトレーニングを行ってもらったときに実に深い言葉を言っていました。指導者の方がお前には「マスコットバットは早い」と怒ったですね。でもその子は「マスコットバットが軽い」っていうんですよ(笑)この意味がわかりますか?わからない方もいらっしゃると思いますので、バット中心操の原理をもう一度みてみましょう。
小学3年生がマスコットバットが軽いと感じるのは何故!?
わかりますか?じつはこの原理ってバットが重ければ重いほど簡単に落下するんです。つまり重心を操作するのが簡単ということです。もちろん手で持てないほど重いと無理ですが、片手で持てる程度でしたら重い方が初心者向けとなるんですね。
だから何でもない小学3年生がマスコットバットを”軽い”と言ったんです。自中操で操作したら当然マスコットバットが一番重くて扱いにくくなるのですが、バット中心操が理想的に行えると、これが逆転するんです。
バットの扱い方の難易度が最も高いのは意外にも
バット中心操は、バットの重心を中心にして、自分サイドが積極的に動くわけですから、基準となるバットの重心が身体で感じやすければその分、難易度は低くなっていくということが言えます。
重心があいまいなバットは力任せに振り回しやすい
「自中操」に陥りやすいので効率的な操作が難しい
つまり、芯がハッキリしていないと中心となるガイドラインが感じられないため、「どのタイミングで、どの方向へ、どれくらいの力を入れればいいのか」という計算がしづらくなるということです。自中操でバットを扱うリスクが高まるということへ繋がるんですね。
ある高校の監督さんは選手があまりにも打てなかったので、試しに試合で使うバットを逆に重くさせてみたら何故か打線が爆発したと仰っていましたが、これはいい例ですね。なまじ軽いバットでは高校生の筋力だと力任せに振り回せてしまうので、結果的に効率のいいバットの扱い方から遠ざかってしまうんです。振り回されないように重いバットで振り込む、軽いバットを使わせるのではなく、そもそもバットを振り回す・振り回されるという概念から抜け出さないとダメだという事です。
ちなみにソフトボールでバット中心操を行う選手が増え、道具をもっともっと効率よく扱うようになってくると、日本でもメジャーなスポーツになるでしょうね。もちろん難易度は図の通り高いわけですが…。ソフトボールという競技はバッテリー間が短く、体感速度が野球のそれを上回るといわれていますから、バットが比較的軽いのは、重いと振り遅れるという理由からでしょうか??私はソフトボールのこの部分は実に興味深いテーマだと思っています。
バットの扱い方を改善する「バット中心操」
実際にバットを持ってやってみるとその難しさを体感する
一番の原因は気づかない力み
やり方は簡単。リラックスしながらバットを片手で持つ。芯を動かさないようにグリップを左右に揺すっていく。これを左右交互に行う。上手くいくと芯が常に一点で感じられるようになる。
バットをもって重心を感じるように柔らかく揺するということは、力みがあるとその分だけ重心の感じ方が鈍ってしまうということ。これでもかというくらい力を抜いて行うと上手くいきます。トレーニングには専用の器具やスペースも必要ありませんので、練習中や試合中などあらゆる場面で行えます。ぜひお試しください。
実戦力を身につける
ヒットを打ち続ける極意~ストライクゾーンを3D化する天才~
2010年のNPBは200本安打達成者が続出しましたが、200本安打と言ったらやはりイチロー選手ですよね。2010年のイチロー選手は10年連続で200本安打という偉業を成し遂げました。さてここまで読んでいただいたあなたは、ぜひそのメカニズムを知りたいという気持ちになっているでしょう。その気持ちにお答えして今回は超一流の打者たちが行う究極の打撃のメカニズムを公開したいと思います。
まず、超一流の選手は何といっても「バットの扱い方」が非常に上手ですよね。柔らかく常に常に重心と会話をしているような、そんな感覚や意識でバットを操作しています。これまで解説してきたバット中心操ですね。そのバット中心操は反応から駆動までの時間が極端に短いので、すぐにスイングを始動できるので誤差が少ないバティングができるというお話をしました。
ただ、もっとレベルの高いことをいうと、バット中心操だけではあらゆる難しいコースには対応できません。もちろんトッププロでの話です。スイングとは全身で行う運動ですから、バットの扱い方を変えるだけでは、よりレベルの高い投手と対戦した場合対応できません。
では、いったい超一流のバッターはどんなメカニズムでレベルの高い投手のボールに対応しているのでしょうか?その答えは「軸」です。一般的な指導では『軸をブラさずヘソ前で打て』といいますが、これが通常のバッターのメカニズムです。
通常のバッターはここでしか打てるポイントがない
体を過度に回すことでヘソが投手の方向を向き、ポイントを前に置ける
しかし、打者にとって早期に体を開くというのは
ジャンケンで一人だけ先に出すと同じくらい間抜けな行為である
一流のバッターの軸の壁
では、一流のバッターはどうなっているのか?
一流のバッターは打てるゾーン(幅)がある例
右打者の場合、赤い部分が左の壁といわれるものである
同じように右側(捕手側)にも作ることができる
これが、ストライクゾーンの3D化です。スイングの始動に圧倒的な早さがあるバット中心操だからこそ成せる神業ですね。こうなってくると投手は打たれるリスクが高まりますよ。良いコースへ投げても単純に赤から青まで見極められる、または打ちに行くことができるわけですから中途半端なボールでは勝負できないということになります。
しかし、これで終わりではありません。上には上がいるんですよ。
これが超一流のバッターが魅せる究極のストライクゾーンである
緑と紫のゾーンがいわゆる緊急事態の保険用である
タイミングを崩されてもこの2つの保険によって打ち直しの幅が増える
『なんじゃこりゃー』ですよね(笑)これが超一流のバッターの安定したバッティングを生み出すメカニズムです。ストラックアウトはご存知でしょうか?ストライクゾーンを9分割してボールを投げて当てるあれです。ストラックアウトの9分割で例えれば、通常のバッターがへそ前インパクトですから9個。一流のバッターが9個×3幅で27個です。さらにイチロー選手や青木選手は9個×5幅で45個のコースを見極めたり、勝負しにいったりできるということです。
このようなストライクゾーンを作ることは誰にでもできるのでしょうか?じつは…この反則ともいえる神業はトレーニング次第で誰でも作ることができます。もちろんイチロー選手や青木選手がみせるように4つも、5つも作り上げていくのは並大抵の努力では無理ですが、一流選手がみせる3つの幅というのはアマチュアの選手でも可能です。
興味のある方はセンストレーニングの【軸ティー】というトレーニングメソッドを行ってみてください。小学生でもできるトレーニングですが、実際に行った選手が打率を急激に跳ね上げている画期的なトレーニングです。
これまでバッティングの左の壁というと、ブロッキングやブレーキングのイメージが強かったと思います。ですが、いま説明した通り壁とは単なる開きを抑える役目ではなく、あらゆるボールに対して最善の対応ができる究極の身体操法だったんですね。こういった本質的な指導やトレーニングがアマチュア界でスタンダードになってくるとバッティングのレベルが間違いなく上がってくるでしょう。そうなる事を願って日々研究し精度を上げ、より「簡単で」/「誰にでもできて」/「効果抜群」なトレーニングを開発し、皆さんに情報を提供していきたいと思います。
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。
引き手の使い方を改善する「引きの極み」
引き手の指導はバッティングに不可欠
脇の締めこまないポジションに注意
やり方は、体の軸を真っすぐ保つ。投手側の胸を大きく開き、脇や肘をスムーズに引けるようにする。横から見ると、肩関節からではなく肩甲骨から動かし、胸を大きく開いているのがわかる。
引き手の使い方はインコースを上手に捌くためには避けて通れません。肩甲骨と肘を柔らかく使うというのは頭で考えてすぐにできる動きではありませんから、じっくり一つ一つを確認して行うと良いでしょう。厳しいコースに投げられたら思うようにバットが出てこない、詰まってしまうというバッターは、ぜひお試しください。
押し手の使い方を改善する「スープ作り」
押し手側の上半身の使い方は難しい
しっかり肩甲骨周辺が動くようにすること
やり方は簡単。捕手側の背中を前へせり出す。体の軸は真っ直ぐ保ちスープをかき回すようにイメージし、グリップを大きく回す。この時に単なる肩関節や肘関節での回転にならないように注意。肩甲骨や肋骨が動作に参加するのが正しいやり方。
少年野球ではあまり押し込み手を重視しませんが、強い打球を打つにはどんな打撃スタイルの選手でも必須の動作です。スイングが安定するメリットもありますからぜひお試しください