正しい腕の使い方でケガに強い投げ方を身につける
「病院へ行くほどではない」「騙し騙しプレーを続けている」「肘や肩は消耗品」などなど、野球選手と肘肩の故障は切っても離せないものです。しかし、いざ指導者として選手へ何を教えるとなるとノースロー調整や単調な走り込み程度…。本質的に選手の投げ方に手を付けるとなると知識や経験が必要になります。このページではスムーズな手腕部の動作をセンス理論で紐解き、最適な投球のメカニズムとその練習方法を公開しています!!
肘や肩が痛くない投げ方といっても、投球フォームをあれこれいじるのではなく負担のかからないように腕の使い方をスムーズにするためにはどうすればいいのかにフォーカスしていく予定です。選手に何を教えていいのかわからないという人に読んでいただけたらと思います。
痛める原因は身体にある!!関節を痛める・痛めない操作とは?
人間が何か運動をしようとした時、メカニズム上必ず2つのタイプに分かれます。1つ目が各関節の支点を固定させて「安定性」を重視するタイプ、2つ目が各関節の支点を巧みに移動させて「運動性」を重視するタイプです。イメージしにくいでしょうから、はさみを使って説明していきます。通常のはさみは中心に固定的な支点を作り2つの柄と刃を押し切るように操作させて安定性を生み出しています。
次に、はさみの支点を動かすとどうでしょうか?支点が動くイメージはこんな感じです。
実際にこのような仕様のハサミがあるかは知りませんが、支点がフリーに移動できると、ハサミがまるで生き物のように動き出し通常の動きでは比べ物にならないほど優れた動きとエネルギーの効率化が実現します。前者が支点を固定し「安定性」を重視したタイプで、後者が支点を巧みに移動させ「運動性」を重視したタイプです。さて、この両者どちらが体を痛めやすい操作法だかわかりますか?答えを先に言っておきましょう。じつは前者の「安定性」を重視したタイプなんですね。今度はこの「安定性」タイプにフォーカスして解説していきます。
メカニズムは簡単です。この安定性を重視するタイプは支点を固定させてテコ、移動、筋力などから生まれるエネルギーを利用するのですが、支点を固定するということは逆にいえば、そこへダメージが蓄積しやすいということがいえます。
建築物で老朽化が最も激しい1つに
支点を固定している部分が挙げられる
つまり、肘や肩を痛める選手というのは肘関節と肩関節に固定的な支点を作り、テコ、移動、筋力などのエネルギーによって投球しているということです。それゆえに固定している部分に疲労が蓄積しやすいということですね。
残念ながら私が知る限りでは「基本の投げ方」と指導している90%の指導者が、この関節に固定的な支点を作らせ「安定性」を重視した指導を行っています。
子どもに教えることは何もない
【子どもは皆天才】という言葉がありますが、私は本当にその通りだなと日々感じています。これは心法の問題ではなくあらゆる身体運動が、です。投手の最も究極と位置付けられる身体操法に「腕のしなり」や「胸の張り」というのがあるのをご存知ですよね?この動き、じつは子どもは至るところで行っています。仲間との鬼ごっこでタッチをかわす瞬間、一瞬にわかには考えられない方向へ体幹部(四支を除いた部分)がグニュっとズレてものの見事にタッチをかわす動き。まさしく胸のはりですよね。しかも、驚くべきは”あの鬼ごっこ”でも行っているということです。常に不測の事態が起こり、時間的拘束もされる状態で行っているんです。
いついかなるときでも気を抜けない状態で、自分のタイミングでという条件がない状態、つまり相手が隠れていたらそれに即座に反応して対応しなければいけない状態でですよ…。これって自分の好きなタイミングで投げられるピッチングとどっちが優れているんでしょうか?もちろん160キロのストレートを投げるほどのパフォーマンスと比べると見劣りしてしまいますが、本質的な運動能力でいえば、このトップスピードで逃げ回り、予測範囲外で急激に襲ってくる相手のタッチを寸前でグニャりとかわすしなやかな動きは、ピッチングの「胸の張り」に匹敵するパワーとスピード、さらに正確性をも兼ねそろえているはずです。
こういった動きがすでにできるのに、なぜキャッチボールでは「胸の張り」「腕のしなり」を教える必要が出てくるのでしょうか?それは意識して行う物なのでしょうか?残念ながら教える必要性が全くないんですね。ここの部分は私が常に言っている【野球上達=センス×技術×環境】が答えを導いてくれます。
まず、なぜそんなにしなやかな身体を持っている子どもが5、6年生や中学生になるとなぜ急激に固まるのか?です。もちろん生物学的な【老い】というのは第一に挙げられますね。これは人間である以上生まれた瞬間から老いは始っているわけで、中学生あたりでは骨格も筋力もできあがってきてしなやかさは失われてしまいます。一部の人間は除いて…。いわゆるセンスのある子どもですね。
ただ、こういったセンスのある子どもも技術とセンスのバランスが崩れるとたちまち凡人の仲間入りです。これが2つ目に挙げられる理由です。子どもの規則性の無いぐにゃぐにゃに動く身体というのは、独創的な動きを生み出すのですが、こういった身体でボールを投げると、とうぜん投げ方が幼稚園児のような感じになってしまうんですよね。次の瞬間頭があっちむいたり、腕があり得ない方向へむいたり、肩もズルズル開いたり、体の軸を大きくスイングしたり…。そこで指導者の方が何を行うのかというと「基本の投げ方」ですよね(笑)これが大問題。規則性の無いまるで生きたヘビのようなしなりを拘束させて「基本の投げ方」を矯正する。指導者の心理イメージは生きたヘビは気持ち悪いから、プラスチックのおもちゃにしよう…といった感じです。
こうなってくると子どもの動きが機械的、無機質な運動になってくるんです。基本の投げ方を忠実に再現した、死んだヘビのおもちゃでは「腕のしなり」が全くでませんよね?そう指導する方に限って、今度は「もっとうでのしなりを出すように投げるんだ」って指導するんですよ…どんだけ矛盾してんだ(怒)ってなりますよね(笑)ここが私が提唱するセンス理論の根本ですよ。良いボールを投げるには投球技術と投球センスのバランスが非常に重要になってくるんです。(上達にはチームの環境も加味されますが、単純にパフォーマンスでみた場合、技術とセンスが重要になります)
野球上達には技術とセンスのバランスが必要!!
図でいうと、指導者の方がいう基本の投げ方は「フォーム」ですから【技術】になります。子どもたちがみせる生きたヘビのような身体の使い方は「独創的な動き」ですから【センス】になります。このバランスを保つのが難しいから肘や肩を痛めてしまうんですね。確かに、フォームができていないとぐにゃぐにゃしすぎていかにも子供っぽい投げ方になってしまいますからね。かといって、先の指導者のように皆一様に基本の投げ方を矯正すると「ヘビのおもちゃ」はいとも簡単にぶっ壊れてしまう。従来の指導方法では、この【センス】と【技術】を共存できる方法がなかったためにバランスを崩し、体を痛める指導しかできない方が多かったのではないでしょうか?
少年が魅せてくれた究極のパフォーマンスとは?
この話はよく色々なところでお話しするのですが、私がある買い物していた時の話です。レジに並んでいたところカウンターの近くに印鑑が売っていたんですよ。そこに4、5歳くらいの男の子がきて興味津津にそのハンコをみていたんです。すぐにその中のハンコをとりだそうとしたのですが、磁石が思いのほか強力で単純に引っ張っても空かなかったんですね。そこでその子は何をしたと思いますか?
ズバリ”肘関節と肩関節の支点の移動”です。はさみで説明した動きをいとも簡単にやってのけたんです。お店においてある印鑑の大きいケースでなくてもこういた場面は結構あるんですよね。たとえば冷蔵庫。気圧差によって簡単に扉が開かない時ってありますよね?そんなときドアノブや取っ手をどのような身体の使い方で手前に引っ張りますか?みなさんは支点が安定していますから(笑)こんなかんじですよね?
ハサミと一緒ですね。肩関節を中心に、テコと移動と筋力によってエネルギーを出力する身体の使い方です。では少年はどんな動きをしたのか?
この一見してなんら関連の無いドアを引く動きがじつは、超一流の投手が行っている腕の使い方と同じなんですよ。「腕のしなりは肩甲骨の可動域によって生まれる」というのは現代のスポーツ科学では常識で、野球界でも当たり前のようになってきましたよね。医学用語の【0ポジション】もかなり野球界に浸透してきました。
肩甲骨~上腕骨が真っ直ぐに一致している状態が
肩が最も安定するポジションである
肩甲骨の可動域を増すためには、肩甲骨が肋骨に繋がっている部分を柔らかくする必要性があるんです。肩甲骨は図でいう三角形の骨ですね。鎖骨とともに、肩甲骨は上腕の安定と運動に深く関わっているわけですが、肩甲骨には16もの筋肉が付着しているんですよ。この間の部分を解剖学では肩甲胸郭関節と呼ぶんですが、この関節には通常の関節構成物がなく、仮関節と位置付けているんです。しかし、この仮関節が限りなく柔らかいんですよ。「生きたヘビのような腕の使い方」をする子どもや、超一流の投手たちの「腕のしなり」はね。この肩甲胸郭関節の柔らかさがハンパじゃない!
16の筋肉によって肩甲骨は繋がっている
この深層筋群をいかに柔らかくするかが鍵
つまり、肘や手首で支点を動かすのは誰だってできるけど、もっと身体の内側である肩甲骨や肋骨の支点を動かすのが重要であり、同時に動かすのが非常に困難な場所でもあるということです。こういった可動域を増すストレッチは世の中にはたくさんでていますので調べてみると面白いですよ。ただ、注意してもらいたいのはストレッチはあくまでストレスをかけるわけですから、やり方を間違えると逆に委縮してしまい筋肉が固まるということもあります。ですから、ストレッチを行う場合は柔らかくスライムを触っているくらいの質感で行うと良いでしょう。この肩甲骨の可動域を増す方法が一般的な指導の限界です。私が今回公開するのは、その次のステージです。
肩甲胸郭関節を柔らかくする方法
章のまとめにセンストレを紹介します。簡単ですからぜひ行ってみてください。
左手を斜め後ろにつき右腕を膝の内側につける。膝を内に絞りながら腕を内側に倒し、肩甲骨を前方へせり出す。肩甲胸郭関節を意識しながら、0ポジションを保ち、肩甲骨と肋骨の間、背骨と肩甲骨の間を柔らかくストレッチする。※決して無理をしないこと
肩甲骨と腕を繋ぐ意識を養う
可動域が十分でも肘や肩を痛める選手がいる理由
肩甲骨の可動域の重要性はどのスポーツでも共通しているのですが、この可動域があればケガをしないのでしょうか?否、可動域を十分に確保しているのに肩やひじを痛めてしまう選手がいるんですよ。これはどういうことかというと、いくら肩甲骨が動いても、肩が最も安定する【0ポジション】から外れてしまうと肘と肩をケガするリスクが高まるということです。つまり、0ポジションをあらゆる腕の位置でもキープできるほどの肩甲骨の可動域を確保しても、【0ポジション】から外れる可能性があるということ。なぜか?ここが非常に重要です。
答えは「意識の薄さ」です。
肩甲骨と上腕骨のラインの意識の薄さが原因で外れるんですよ。誰だって腕を横方向へ水平に伸ばしたり、なんでもないガッツポーズをしたりすれば【0ポジション】はキープできますよね?しかし、これが動作中になるとそう簡単には行かないんです。この意識の濃薄は人間の奥深い能力の一つですよね。
たとえばギター。ギターにはコードというものがあり指で押さえて音を出すのですが、ギター初心者が最初につまづくのがFというコードです。通常ギターは利き腕ではなく逆手でコードを押さえるんですね。右利きなら左手です。だから余計に難しいんですよ。ギターをやったことのない人は指の形だけでも真似してみてください。
ギター初心者の最初の壁といわれているFコード
普段使わない動きであるがゆえに非常に操作しにくい
身体の中で最も意識が濃い手や指先でさえ、慣れていない動きは難しいんです。このFコードもとうぜん曲中(動作中)にパッと押さえてすぐに次のコードへ行かなくてはいけませんので、いかに指先や手の意識が濃いかが上達のカギになるんです。ギターを最初であきらめてしまう人が多いのはこういった難しさからくるんでしょうね。そこで何が言いたいかというと毎日あらゆることで使用してきた、身体の中で最も意識の濃い指先でさえこの様ですよ(笑)いわんや肩甲骨と上腕骨の意識っていったら…。投動作中に【0ポジション】から外れるのは逆にいえば当然ではないでしょうか?
だから、肩甲骨の可動域が十分であっても肘や肩を痛める選手がいるんですよ。もちろん可動域はものすごく重要ですよ。ただそれをコントロールできないと、逆に動きすぎて肘や肩の内部が引っかかるということもありえてしまうわけです。指導者の立場でいえば、これほどやっかいなことはありませんよ。意識の濃薄って目には見えませんよね?だから難しいんです。これまでの野球界ではこういった部分をトレーニングするという概念はありませんでしたからね。センスのある選手は「肩の痛くない所」を探しながら練習していき、自然と痛くない腕の高さを見つけられるのですが、指導者側がそこで皆一様に「基本のフォーム」を指導し始めると何をやっても痛くなってしまうんです。ここは皆さんもハッキリしておきたいでしょうからもう少し詳細にお話しします。
『肘が下がってるよ』はじつは間違い!?
私はこれまでに『肘が下がっている』と怒鳴る指導者の方を数えきれないほどみてきましたが、「え!?どこが???」とおもわずツッコミを入れたくなるケースも多々ありました。『肘が下がってる』と怒鳴る自分が指導者らしくみえるのか、まったく指導する気がないのか、憂さ晴らしに子どもに罵声を浴びせているのかは知りませんが、的外れな指導を行っていることは確かです。そもそも肘が下がるとはなんでしょうか?肘は下げてはいけないものなのでしょうか?この2つを明確にしていきましょう。
肘が下がっている
これは単純に肘のポジションが低いと下がっているという見方がありますが、じつは0ポジションから外れていなければ下がったとは言えないんです。肩のラインから下がっていなければ大丈夫という指導者の方も多いと思いますが、肩のラインではなくあくまで【0ポジション】が外れているかどうかです。バッティングやテニスも超一流の選手は、肘が肩のラインから下がりますが、肩甲骨が下方へ移動していくので【0ポジション】はキープできるのです。
肘のポジションがかなり低い位置にある
テニスプレーヤーのフォアハンド
こういった下がりは正しいんですよ。でなきゃ、サイドハンドの投手やアンダーハンドの投手がいなくなりますし、バッティングやテニスなどができなくなってしまいますからね。重要なのは「見た感じ肘が下がっている」ことではなく「0ポジションから外れているかどうか」です。
肘が下がっていても0ポジションから外れていなければ
悪い意味で肘が下がってるとは言えない!
肘を下げてはいけない理由
プロの一流の内野手で上から投げている選手が全くいないのに気付いていますか?ここまで読んでいただけるくらいですから、とうぜんあなたは気付いていたと思います。この、上から投げていない事実を、よく指導者の方は『プロは基本ができているから横から投げても痛めないんだ』と言い張るんですが、まさにその通りなんですよ。ただ勘違いしているのは【基本】というキーワード。確認のため言っておきますが、基本とは…真っ直ぐ立って/相手の胸をみて/大きく腕を開き/トップの位置を高く/縦に振りおろす…ように投げることではありません。これはあくまでも、形式上?の話であって野球を行う上での本当の【基本】とは私の提唱するセンス理論でいう【技術】と【センス】のバランスです。
第一章で解説した、まるで生きたヘビのような支点のスムーズな移動ができる腕(センス)と基本的守備技術(技術)があれば、絶対に肘を下げてはいけないということはないんですよ。むしろ腕を上に挙げるということの方がしんどいはずです。地球上にいる以上、常に【重力】が必ず働きますから、その重力に拮抗して腕を持ち上げるということは、単純に考えて難しいに決まっているんですよ。ちなみに、このオーバーハンドスロー(上から投げる)で「はさみ」や「ドアの引き方」で解説したような支点のスムーズな移動が完璧にできる投手は、皆例外なく歴史に名を残しています。
それほど難しいことが基本であるというのには、やはり今まで自分が教わってきたこと以外のことはノータッチでという心理が働くのでしょうね。気持ちはわからないでもありませんけどね。ただそれを「基本のフォーム」だといって矯正させると肩や肘が間違いなく痛くなってしまうので、これを読んでいる指導者の方はこの機会にぜひ指導法をちょっとだけ変えてみてはいかがでしょうか?まずは、プロの一流の内野手たちが真上から投げていない事実を受け入れてください。私があれこれいうより何百倍も説得力がありますからね。
すぐに実践すべし!肘・肩の痛くない投げ方
ここで一旦まとめます
ⅰ.運動のタイプは2つある
支点を固定する【安定性重視】と支点をスムーズに移動させる【運動性重視】
ⅱ.肘や肩を痛めないのが【運動性重視】
支点を固定するから、そこへダメージが蓄積してしまう。支点を抵抗なくスームーズに動かすことで優れた動きとエネルギーの効率化が生まれる
ⅲ.良いボールを投げたいならセンスが必要
【技術】×【センス】は肘や肩へのダメージを減らすだけではなく、ベストパフォーマンスが発揮される
ⅳ.肘は下がっても0ポジションがキープできてれば問題ない
肘が肩のラインから下がっていても、肩甲骨の可動域が広いと0ポジションから外れない可能性があるのでパッと見では判断しないこと。
以上が基本事項ですね。
そして、ここからは実際に肘や肩が痛くない投げ方を行う際の段階を解説していきます。
正しい投げ方3つの段階
肘や肩の痛くない投げ方には3つの段階があります。
まず第一段階は、【肩甲骨の可動域】つまり肩甲胸郭関節の柔らかさですね。この可動域を確保できれば0ポジションがキープできる範囲が増えますので、ケガのリスクは減ります。
そして第二段階は、【肩甲骨と上腕骨のリンク】つまりどんなに第一段階が優れていても、このラインの意識が薄いと0ポジションが動作中で必ず外れるということでしたね。この部分の意識を濃くすることで投球動作中にも0ポジションから外れることなくボールを投げられます。とうぜん肘や肩への負担は激減しますよね。
そして最終段階は、【可動域とリンクの共存】です。この移動とキープという相反する2つの段階をより高い次元で共存できる段階が存在します。この段階は一流のプロの投手レベルの話なので、今回のテーマからは外れますので深入りはしません。ですから、肘や肩が痛くない投げ方は実質2つの段階で可能だということです。全体的にはこんな流れになります。まずは可動域の確保、次にそれを動作中でキープできるようにする。簡単ですよね?より多くの選手や指導者に理解または実際に行ってもらいたく、できる限り頭を使わず効果が出るように工夫しましたので、このレポートで紹介しているセンストレをぜひ行ってみてください。
簡単センストレ!意識を高めるリンク法
パートナーと手を取り合い肩甲骨をできるだけ前へせり出す。このとき0ポジションをキープするのがポイント。パートナーは肩甲骨と上腕骨のラインをさする。徹底的にさすると意識が非常に高まりこれだけでも、動作中に0ポジションがはずれなくなる。一人でも可能なので至るところで行ってほしい。
ボールを中心に肘・肩関節を前後に柔らかく滑らかに揺すっていく。(肩甲胸郭関節から動かす意識で行うと上手くいく)これを何度か行い、スムーズに前後動ができるようになったらそのまま流れるように投球動作へ繋げる。力みなく揺すれれば第一、二段階を同時に体現できる。
これだけは注意しておきたい‐タイプ別危険な投げ方‐
肩関節固定タイプ
テイクバックで肩関節を固定支点にボールを大きく高く挙げるタイプ。肩関節に大きな負担がかかる投げ方の一つ。写真からも肩関節に非常に強い固定的な支点があるのがわかる。肩甲胸郭関節の柔らかさを早期に養い、支点のスムーズな移動を可能にしたい。
肘関節固定タイプ
肘関節に固定支点をつくり、動きを極端に制限させ安定感を生み出すことで、ボールを置きに行くタイプ。普段から暴投への恐怖を感じさせるチームに非常に多い。まずはリラックスして暴投を恐れずに、ボール中心操を徹底して行ってほしい。コツをつかめば上手く腕が振り抜けるようになる。
上から投げおろすタイプ
支点のスムーズな移動を使ったオーバースローは明らかに初心者向けの投げ方では無い。肋骨の回転も個人によってそれぞれタイプは違うが、肘・肩の支点の移動が最も難しい投げ方である。まずは、腕の高さにこだわらず各関節の支点の抵抗ないスムーズな移動ができるようにしたい。
あとがき
これまで肘や肩の痛みは野球には付き物とされてきた野球界…。しかし、本当に優れた投げ方というのは「気持ちのいい運動」であり、運動のレベルも大変高度なものだったのです。そして、本編ではそのメカニズムを紙面上収まりきらず、説明が至らない所は多々あったと思いますが、これまでにない新鮮な解説ができたかと思います。
そのメカニズムについて身体の使い方から見た場合、最も注目すべきは肩甲胸郭関節だといえます。つまり、肩甲胸郭関節が柔らかく滑らかに支点を移動させることが、肘・肩の痛くない投げ方を体現する必要不可欠な要因だということです。したがって、手首や肘が比較的簡単に支点を移動できるように肩甲胸郭関節も自由自在に移動できる段階に至らないと、真に肘・肩の痛くないベストパフォーマンスというのは発揮されないということです。こうした視点から見てみると、野球の見方も変わってきます。たとえばダルビッシュ投手。彼は間違いなくこの肩甲胸郭関節の移動が自在にできる投手です。マエケンや藤川投手の滑らかな支点移動も、印鑑の少年が何気なく行ってしまう超高度な身体の使い方も共通しているということに人間の奥深さ、投動作の奥深さに気付かされませんか?
そうしたことから、じつに多くの子どもたちがプロのそれと変わらないパフォーマンスを日常的に行っているということがわかります。こうして考えてみると、この人間の優れた潜在能力を、非合理的な指導やくだらない形式主義的な指導法で潰してしまうのは遺憾であると思うのです。しかし、身体のメカニズムをこのようにみていくと、こういった高度な身体の使い方は子どもなら誰にでも可能であり、またそうした高度な動きができれば肘や肩の痛くない投げ方というのは容易くできるということなんです。
こうして考えてみると、「テイクバックで肘を肩のラインまであげて…」「肘が下がってるからもっと大きく上から投げて…」「肩の開きが…」など、投動作の一部の個所を狭い視野で判断、指導していくというのはこれから先の野球界では全く通用しなくなるでしょう。したがって、われわれ指導者は「野球人口のおよそ30%が肘や肩に不安を抱える(病院へ行く程度では無い選手を含めると半数近いのではないでしょうか)」というこの閉塞的な状況を何とかして改善できるように努力をしなくてはいけません。このような観点から本質的な意味で投げるという運動をな見直してみてはいかがでしょうか?最後になりましたが多くの特別会員、DVD購入者、お問い合わせいただいた方々のお力添えをいただきました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。