少年野球でMAX110キロを超えるための下半身の使い方
以前から、「小学生にピッチングを教えるにはどのような指導をしたらいいでしょうか?」という質問をよく頂いていました。私が小学生だった頃に比べると、最近はインターネットや書籍などでピッチング指導の情報が簡単に入手できるようになり、逆に教える側がどれをチョイスすればいいのかわからない状態になっているようです …。なので今回は、私がおススメする「本格派のピッチャーを育てる方法」をまとめてみました。
最近、昔読んでいた本を整理していたところ、ピッチング系の本を発見したりして懐かしい思いにふけました。当時中学生だった頃、ジャイロボールってどうやって投げるんだろうってところから始まって、用語もよく分からないまま色んな本を読んだりしたことを思い出します …。
今となっては理論ばかりが先行してしまい「打者を打ち取る」という野球の本質から随分と遠回りしたなぁ … なんて思ったりしました。
最近では ジャイロボールなんて当たり前に言われてますし、新しいピッチング理論を提唱している方も多いですよね。コーチに言われた基礎練習をただ行っていた私の小中学生期に比べると、いま学童野球の投手を指導しているお父さんにとっては、かなり難しくなってるのかな?という印象を持ったりしています。
メールでのやり取りをしていても『色々な本やDVDを参考にしたが、結局どう指導していいのかわからない』という質問を時々いただきます。そこで今回は、これから学童野球で本格派のピッチャーを育てるにあたって、何をやったらいいの?という流れをピッチングの命でもある下半身の正しい使い方にフォーカスして書きたいと思います。
お子さんがピッチャーを任されたお父さん、チームのピッチングコーチを任されている指導者の方に読んでもらえたらうれしいです!
足を高く上げる時に注意すること
まず ピッチングというのは、重心のコントロールがもっとも大切です。野球経験の無いお父さん方は知らないかもしれませんが、これが上手いか下手かで球速は2,30キロほど変わってくるんですよ。ただ「重心のコントロール」という用語は聞いたことはあっても実際の動きとしては、ちょっとイメージがしにくいかもしれませんね …。
たとえば、投手は速いボールを投げる力を生み出すために片脚を上げます。その脚は高く上げれば上げるほど速いボールが投げらそうなイメージがありますが、じつはそうでもないんですよ。同じような体格体力でも、あまり脚を高く上げずにクイック系のフォームで速いボールを投げるピッチャーもいます。要はバランスですね。たとえ、大きな力があってもそれを上手に使えなければ意味がないということ。ではさっそくやってみましょう。
脚を上げて重心を感じてみよう
これは実際に行ってみましょう。まず、いつもの自分のピッチングフォームで脚を上げてみてください。脚を上げたらそこで一時停止する。運動不足なお父さんはこれだけでもグラグラしてしまうと思いますがw(怪我しないように周りに注意しながら行ってくださいね)
では次に、片脚を上げている状態で足の裏を強く意識してみてください。グッ、グッと重心が勝手に移動してしまいますからバランスを取りましょう。ここが重要。足裏のどこを中心にバランスを取ろうとしているのか?これを明確にしてください。
この図でいうと拇指球(A)か小指球(B)か踵骨(C)の3つの内の1つがピッチングに適しています。どこがいいか皆さん分かりますか?
ヒントは「軸足が安定した立ち方」が良い立ち方です。
拇指球に重心を置いてみる
ただ、この安定というキーワードの解釈がピッチングでは注意が必要なんですよ。(なんかダ・ヴィンチ・コードみたいでしょう?そんな大げさなものではないんですけどね…)
たとえば、通勤の電車で「おっと」って感じでバランスを崩してしまったサラリーマン。目の前にはちょっと綺麗なお姉さんが … ここで皆さんならどうしますか?多くの場合Aの拇指球でグッと踏ん張って上体を安定させると思うのですが、どうでしょうか?( … もちろん、そのまま突っ込む方はいませんよね!?)
これなら、多少横から小突かれても踏ん張れるくらいガシッと立てます。でもこれがピッチングでは大問題。これから110キロを超えるストレートを投げる場合には、このガシッという安定感がもっとも不向きなんです。
小指球はピッチングには使えないが…
Aの拇指球はピッチングでは不向き。次は脚を上げてBの小指球へ重心を移動させてみましょう。外側に乗っているので、バッター方向とは真逆に位置します。
これでピッチングを行う場合は、センター方向へ重心が乗った状態から、キャッチャー方向へわざわざ移動させなければいけませんので、余分な力を使ってしまいます。学童野球の投手育成の基本は“外側に体重を乗せるのは禁止”これは必須です!
ただ、左バッターはこの外側のポジションが使えたりもするんですよ。これは余談になってしまいますが、イチロー選手はしっかり打った後一塁方向へスムーズに移動しますが、じつは小指球のポジションは、そのまま斜め前、つまり小指方向へ重心が抜ける動きに適しているんです。ピッチングは進む方向が逆になるので残念ながらこれは使えませんけどね。
ということで、残ったCがピッチングに適した位置です。もちろんこれで終わりではありませんw 軸足の安定した立ち方は足裏だけ良ければ良いというわけでは無いんです。
安定した軸足で立ってみよう
バランスを取るときには以下の最適なポジションを参考にしてください。
- 踵と股関節がまっすぐ一致する
- 脚の配分は腿前が2、腿裏が8、中心に8、内側に2
- 上体や腰は曲げず反らさず自然体
まず、脚を上げて踵へ重心を移動させます。その時に脚の筋肉がバランスを取ると思いますが、理想の配分は前2:裏8で踵寄りです。
この部分は『拇指球でグッと踏ん張ってガチッと前寄りだ』という指導者の方が多いかと思いますが、そのガチッという安定感では残念ながら100キロの壁は超えられません。アクセル全開で行きたいのですからここでブレーキをかけちゃダメですよ。目の前に綺麗なお姉さんはいないのですから…w
また左右の配分でいうと中心に8で気持ち内側に2が良いですね。外側の脛や腰で踏ん張らないように気を付けてください。これが出来れば股関節と足裏がまっすぐ繋がり、想像以上に軸足が安定してきます。
ただ、8:2の割合を意識してしまうと腰や上半身を反ったり曲げたりする一生懸命な選手がいますので注意が必要ですよ。この配分ができない理由はズバリ「股関節周りが固いから」です。
『頭ではわかっているんだけど、なぜかできないなぁ』というのは、重心のコントロールを脳や脳から命令された筋肉が支配しているから。それらを根本的に良くしない限り出来ません。
ピッチングもバッティングも、軸足の股関節に重心を置き上手くコントロールするのは同じですから、普段から意識してトレーニングしてみてください。もちろん筋トレという意味ではありません。動作を身体で覚えるという意味で。
理想の脚の高さは、この軸足の安定する立ち方が最も行いやすいポジションを投手本人が探すことで完成します。上記ポイントをしっかり押さえて二人三脚で探ってみてください。
体重移動は球速アップに欠かせない
軸足が安定した立ち方が出来たら次にその重心をキャッチャー方向へ移動させましょう。体重移動の指導でよく言われるのが、靴何足分のステップ幅が良いとか、お尻から移動すると肩が開かないとかですね。
エッジを立てるように足を倒してみる
昔はピッチャーズプレートを蹴るようにと指導されていましたが、最近ではスキーの板のように内側へエッジを立てる(インエッジ)ように足を倒す方法を教えているお父さんも多いみたいです。
私も学生の頃この動きを意識して行っていましたが、結論からまず先にいうと…インエッジは意識してはダメです。体重移動って「重心を自分の思い通りの方向へ好きな力の分だけ移動させる」ことが目的ですから、前提として方向や力の入れ具合を自在に操れなきゃダメなんです。
このインエッジという動きを真似だけして体重移動をしてみると、重心が上手に移動できていないのに、足だけエッジを立てるように傾くという奇妙な現象が起こるんです。つまり、みた感じはインエッジの動きができてるけど、本来望んでいる体重移動の目的は果たせていないという何とも残念なことが起こります。
エッジは使えないから踵で踏み込む
1章の軸足の立ち方で踵と股関節を結んだのは、じつはこの体重移動で大活躍させるためです。あのポジションで立てるとあとはスイッチ一つ!踵で投手板を思いっきり踏み込むだけ。たったこれだけで重心の移動は上手くいきます。
踏み込むイメージはバチで太鼓をトーンッと叩くように強く地面を踏み込みましょう。タイミングとしては脚を上げきったシーンからキャッチャー方向へ移動するように踏み込み始めて、前脚が着地するまで強く叩いてください。
体重移動を練習してみよう
- 脚を上げ軸足の踵に重心を置きスッと立つ
- 踵で強く踏み込む力を利用して軸を移動させる
- 異なる3方向へ自由自在に移動してみる
まずは、脚を上げて軸足でしっかり立ちましょう。重心は踵へ。ここで拇指球で踏ん張ってしまう選手はまだまだ股関節周りが固いですから入念にトレーニングをしてください。次に、踵で地面を踏み込んで体の軸を移動させていきます。この部分のコツは、踵で踏み込んでいる時間はずーっと股関節が踵の上に乗っているようにすることです。踏み込んでいる時の力が逃げないように軸足の股関節で蓋をするようなイメージでしょうか?
それが出来たら力の調整は簡単ですから、あとは方向の調整だけです。お勧めな練習は、ピッチャーのTの字の練習が良いですよ。
踏み込んで移動させる方向を1つじゃなくて最低でも3方向は練習しましょう。慣れてくるとさらに細分化して5方向なんかもできてきます。これは室内でもできますからおススメです。
踵の意識で移動ができるようになったら、最終的には「身体の軸を目標に向かって真っすぐ移動する」という意識で、この体重移動できるようにしておきたいですね。試合中で余計な事を考えていては110キロは投げられませんから。
ここまで解説した通りに踵でプレートを強く踏み込めたらインエッジの形というのは勝手にできているはずです。重要なのは力を思い通りに調整して移動させること。ここは絶対に間違えないでくださいね。
ピッチングは下半身が命といわれているように、重心のコントロールが上手くできれば調子が悪くてもコンスタントに90キロは楽に投げ続けられるはずです。まずはここまでキッチリ教えてあげてください。