判断力の優れた選手を育てる練習法
私がチーム単位や団体での指導依頼を受けた時に行っている練習法をご紹介しましょう。
ボールをキャッチしたり相手に投げられる程度のスキルレベルだと非常に面白い練習ですよ。難しい技術よりも試合では基本的な判断力が最も求められますから、この方法は少年野球の守備練習におススメです。ぜひチームで取り入れてみてください。
野球は刹那無常ということ
「刹那無常」とは、現象は一刹那一瞬に生滅するという姿のことを指します。ちょっと難しくなってしまうのですが、刹那とは仏教の時間の概念の1つで最小の単位を表す言葉です。どれくらいの長さかというと一弾指で65刹那あるとされています。簡単に言ってしまえばデコピンする間に65回ですから、単純に考えても0.006秒程度でしょうか?とんでもない長さですね。
この刹那というのが何かというと私は野球のプレー中に選手へ与えられる判断の時間だと思っているんですよ。一刹那の間に、現象は常に変移し、一刹那一瞬にしてチャンスはチャンスではなくなる。つまり、チャンスと考えている時点ですでにチャンスでは無いということです。頭で状況を考える暇があるのなら状況に身を委ね、その刹那に集中すること。でも、これが本当に難しい。
一般的にセンスのある選手とセンスの無い選手を直感的に感じているものが、もしかしたらこの「判断力」や「機転を利かせる」といった要素かもしれません。それくらい判断するということはプレー全体に影響していますからね。
何でもかんでも頭を使えば良いってもんじゃない
とある県にて、指導依頼を受けた時の話です。何人かの指導者が集まって意見交換をしていた時に「守備の判断を鍛える練習」について例が挙がったんですね。内容は、捕る側とゴロを転がす側の二人一組で行い、ゴロを転がす人が足し算の問題を出すんです。それを答えて奇数なら右のネットへ、偶数なら左のネットへ投げるという練習です。
もの凄く難しくてミスしている選手が多かったのですが、それを見ている私には選手の動きが一瞬「うっ」と居着く光景が印象的でした。しかし、それ以上に印象的だったのが、チームでこの練習法を導入しているという監督さんとの会話です。「アイディアは面白いけど実際に判断力を上げるといっても難しいんです」これは非常に鮮明に覚えています。
この手の練習法は左脳を働かせて考えるのですが、じつは野球の好プレーに直結する判断力というのはこれらの脳のメカニズムとは違うんですよ。
情報を削れるだけ削ったらあら不思議!
少年野球の守備練習で何か良い教え方は無いかと聞かれたら私は真っ先にオススメするものがあります。それは選手が考えなければいけない情報を減らすという指導法です(上記の練習とは逆の考え)。通常「次のプレーを頭に入れておけ」と指導しますが、数年間でインプットしたのもを、ある試合のある1プレーの中で瞬時にアウトプットするのは小学生には無理です。だから発想を変えるんですよ。相手は子供ですから。たとえば狭殺プレーの練習。
石川がお勧めする狭殺プレーのルール
- 「グローブ持って敵をタッチしたら勝ちな仲間9人」対「次の塁のベースを踏んだら勝ちな仲間1人~3人」
これだけですよ(笑)でも子供って驚くことに「次のプレーを考えろ」って言わなくてもこれだけの決まり事でしっかり出来ちゃうんです。仲間9人で敵のたった3人をタッチすればゲーム終了ってルールだけ。上級生にもなると試合でミスしたシーンをピックアップして練習したりと、色々なパターンを練習するようになりますよね?どこに誰がどうカバーして、ランナーと交錯しないように右か左か?を決めてどっちに投げればいいとか・・・。でもそういう部分って本来教えるべき部分じゃないと思うんですよ。9対3人で戦ってるだけって教えれば、仲の良い友達と鬼ごっこで遊ぶ時のように各々が工夫するんです。子どもはとにかくゲームに勝ちたいから(笑)
もちろん基本的なフォーメーションやスキルなんかは教えるべきでしょう。野球上達には技術とセンスのバランスが大切ですからね。ただ上級生ならボールを投げたり捕ったり出来るわけですから、わざわざ記号的な約束事を増やしてまでも形式上に囚われることは無いということ。子どもの独創性を失わせてしまった結果、肝心の本番で一歩目の判断を鈍らせる・・・なんてことになったら本末転倒ですからね(笑)
流動的な動きの中でボールを扱う
ここからが本題なんですが、私がチーム単位や団体での指導依頼を受けた時に行っている練習法を紹介しますね。やり方はたぶん皆さんもご存じの泥警です(関西では警泥でしょうか?調べてみると各地域で色々呼び名はあるようですね)
石川がお勧めする連携プレーの練習法
- 泥棒と警察の2チームにわかれて行います
- フィールドは基本ダイヤモンドの広さで慣れてきたら色々試してください
- 当たっても全然痛くないボールを使用します。※1000円程度で購入できます
- 泥棒チームはボールを牢屋に捕まっているボスへ届けます
- 警察チームは泥棒の腰にあるタオルを捕るか連携中のボールを捕ります
基本ルールは皆さんの地元ルールで構いません。要は泥棒チームは、ゴロでも遠投でもトスでも何でもいいから動き回りながら仲間と連携してボールを回し続け、何とか牢屋にいる泥棒のボスへ届けるという流れ。(イメージ的にはサッカー日本代表の「人もボールも動くサッカー」です。サッカーに詳しくない方は余計にわかりづらいですね・・・)
警察はそれを阻止しつつ、泥棒の子分たちを捕まえていくという、非常に面白いゲームです。実力差があるならボールを持っていない選手は捕まえられないなど、どんどんアレンジをしてみてください。私が考えたアレンジは様々なミッションを泥棒側に与えてゲーム性を高め、難易度別に4段階程度にしたのですが、やり方をすべて解説すると長くなってしまいますのでお任せします。ご自由にどうぞ(笑)
これは本気になって楽しめば守備に必要な基本というのが身に付きますよ。ここでいう基本は数あるスキルのことではなく「相手より早く指定のベースへボールを届けること」を指します。形を競っているわけじゃなく、いかに早く正確に、相手をかわしてボールを繋ぐか?これのみが評価になるわけですから、「上から投げなきゃいけない」とか「両手でとらなきゃいけない」とか、そういう部分は関係ないんです。
こういったゲームでどうしても勝てなくて、悔しくて本気になって勝ちたいと思った選手にだけ、いわゆる基本の捕り方や投げ方を指導者の方がこっそり教えればいいんです。そうすると技術とセンスのバランスが上手に整ってきて、より効率的にプレーできるようになり、自然と状況判断というのが良くなってきます。技術とセンスのバランスを考えた指導を心がけることは、選手の上達を一気に早めますのでしっかり見極めていきたいところですね。