周辺視野でボールを見ることがすべてではない
「ホームランの打ち方」と「ヒットの打ち方」で周辺視というキーワードに触れたのですが、もの凄い反響でした。私は“打てる選手はこうしている”という形を公開したわけですが、やはり『具体的に周辺視野とはどうやるのか?』という疑問や質問を多くいただきました。ただ、この目の使い方はタイミングを取る上でメインになる要素では無いと思っています。メール相談を行っていると、ここの解釈を誤っている人が多かったので今回はちょっとまとめてみます。
以下、実際にいただいたメールを紹介しながら周辺視と密着の関係について解説していきます。
ティーバッティングでも石川さんの「中心視」と「周辺視」との関係がかなり、関わりが有ると私は感じています。私のトレーニング内容は、ミート時は、周辺視での「バットの重心」でひっぱたくイメージで行っています。
ですので、インパクト時は殆どボールは見えていないことになります。むしろ、敢えてボールを見ないように、イメージでスイングしています。このような方法を如何お考えでしょうか?
2つの目の使い方は日常生活で無意識に使い分けている!?
周辺視と中心視の目の使い方はかなり説明が難しいですよね。最近では速読術などが注目を集めていますが、昔日の剣術家は「遠き所を近く見、近き所を遠く見ること」というように、状況によって周辺視も中心視も使い分けることが相手に勝つ最善の手段であることを既に真剣での斬り合いで実戦済みです。
私もこの目の使い方は極力説明を避けてきたんですよ。というのも「理論」と「実際の運動」とではギャップがあり過ぎるというのが原因なんですが。
目の使い方なんて日常生活では無意識に使い分けている選手がほとんどですし、それらを意識して試合で行うことで自然とできていたものが失われるリスクが高まるからです。
運動として両者の使い分けが自然とできていたのが、まるでテスト前日に丸暗記した内容を一気にアウトプットするかのように外面だけに囚われ「相手のボールをただただ打つこと」から逸れてしまう…こうなるとスランプから抜け出すのは困難になるでしょう。
ボールに身を寄せ喰らいつくということが大切
それともう一つ。大事なことなんですが周辺視でボールの軌道をみるメリットは、やはり体軸とライン(ボールの軌道)の一致です。椅子ティーのスナイパーショットが一番わかりやすいと思いますが、バッティングは
- 自分の身体の軸
- 相手の身体の軸
- ボールが通る軌道のライン
の3つの軸を使って行うと最も安定するんです。
周辺視でボールをみたから打てるのではなく、ちゃんとボールをみているんだけどボヤーッとみることで軌道、つまりボールが通るラインをみることが目的です。
そのラインを自分と相手の軸を利用して、ボールと身体を密着させていくというのが全体の流れなんですが、この理論を詳細に語ると、タイミング系という極めてデリケートな部分をほとんどの方は試合中に意識してしまい「ただただ打つこと」から遠ざかるだろうなという思いから、詳細な理論はほとんど公開していません。
私の他にもバッティング理論で「周辺視が有効だ」という方がいらっしゃいますが、上記のように、じつはボールの見方それ自体はあまり効果はないんですよ。ようは軸の一致がスムーズにいきボールに喰らいつきやすくなるというだけです。もちろん、そういったボールに対しての密着ができれば打率は急激に跳ね上がりますが…。
皆さんも体感しているように、ある程度技術がある選手なら、目を切ってもスイング自体の軌道が無意識にライン化されていたり、ボールをキャッチする際に落下地点が無意識にわかったりなど周辺視は実は少なからず使えているんですよ。
ティーバッティングは正面から行うのがお勧め
練習方法についてということですが、“ボールを見ないように、イメージでスイングができる”のならティーバッティングでは正面からボールをトスしてもらう練習はどうでしょうか?
ボールのラインに対して自分の身体の軸をベターッとくっ付けていくようにイメージしながら打つと周辺視も密着も鍛えられます。椅子ティーのスナイパーショットで軸とラインの意識を覚えてから行うといいかもしれません。コツは軸足踵の踏込から体重移動が始まるようにすることです。
ベターッとボールのラインに密着するときは「どれくらい移動したか」は考えないでください。密着は移動型と落下型というようにあえてタイプ分けしましたがたとえ10cmしか移動していなくてもラインにくっついていくことは意識の中では可能ですからね。「周辺視を使って自分の体軸をボールの軌道に合せるように…」よりも、「軸足踵の最後の一踏みで、ボールにくらいついていく練習」くらいのイメージの方が上手くいきますよw
それぞれにボールを持った二人が、同時にボールを投げてキャッチしながら、平行に走って行く時の目の使い方は周辺視を鍛えるものとして有効でしょうか?
フィードフォワードに陥りやすい練習を避けるのがポイント
これは選手本人の意識によって大きく左右されます。中には目的を全く理解しないまま、中心視を使ってボールを追ってしまう選手もいますからね。ただ、方法としては面白いかと思います。
選手の語彙力にもよりますが、周辺視のイメージを伝えることが難しい、伝えても理解しない場合は自然とその目の使い方が使えるような工夫が必要です。
たとえば、当たっても痛くないキャッチボール用のボールを複数個用意して複数人でボール回しをするとか。常に一定の方向やスピード、距離でボール回しをしているとついフィードフォワード(予め相手の動作を予測して動く)でパターン化された練習になってしまいがちです。こうくるからこう捕ってこう投げるとか、です。
これらを打開していくには「いつどのタイミングでも」といえば大げさですが四方から飛んでくるような状況で行なえば、より自然と周辺視が使いやすくなりますよね。
投げ当てアリの鬼ごっこのルールをアレンジして「複数の敵から常に気を抜けない状況下」にさせるというのもいいでしょう。こういうゲーム性の強い練習はチームで行う場合は盛り上がります。
選手に知識として入れても良いってことでしょうか?選手はただやるだけとの解説がありましたが、何を何処までならOKなのでしょうか?
私個人の意見としては、周辺視はあくまで指導者の知識としての理論でありグランドレベルでは選手が意識すべきものではないと感じています。
たとえば、車や自転車を運転する場合。交差点では複数の情報を一瞬でまとめなくてはいけません。右からくるトラックに気を配りつつ、左からくるバイクをみる。信号機を確認しながら正面からの車や歩行者にも気を付けなければいけません。
こういう場合、必ず中心視と周辺視を無意識に上手く使い分けているはずです。もちろん「いけるかどうかの判断」は個人差があり、事故が無くならない原因の一つでもあると思うんですが。
さらに、目の使い方そのものは真新しいものではなく、重要なのは「体の軸をボールの軌道に寄せる」「ベターッとくっつける意識」を覚えることです。キャッチボールでも上級生にもなると、カッコつけて途中で目を切ったりしますよね?あれもボールの軌道(ライン)が無意識にわかっているからできるわけでこういう目の使い方は先の交差点でも自然と行えています。
野球で行う、バッティングで行う時は目の使い方どうこうを事細かに教えるのではなく「ラインという意識」+「体の軸をベターッとくっつけること」を中心に教えていくと上手くいきますよ。上記2つの要素を上手く引き出すための練習・指導の方法を工夫してみてはどうでしょうか?ということです。
並走してのキャッチボールも、ボールの軌道に体の軸をくっ付けていくという動きを徹底させればバッティングにもとうぜん影響してきますし積極的にそういう教え方をすべきです。2つの要素を取り入れてれば周辺視でのバッティングなんて自然とできてきますしそこから逸れなければ思いつく練習のほとんどに応用できますよ。
何を何処までやるのかの問題も、“これ”って決めつけると、選手自身がパターン化やノルマ化をしてしまう危険性があり「センス抜群でクリエイティブな選手を育てる」という主旨から逸れますから常に工夫ですかね。とはいえ、無から有を生み出すのはしんどいですからそういう意味でも私のセンストレーニングをベースに色々アレンジして練習や指導に取り入れていただけるとありがたいです。
密着についてですが、止まった状態での軸キャッチは効果がないのでしょうか?
現在、並走での軸キャッチを始めましたが、場所や天候なども有りますので
自宅内で行える工夫をしたいのですが、何か良い方法が有れば教わりたいです。
止まって行うのはもちろん効果がありますよ。私がよくやっていたのは発泡スチロール野球という遊びです。室内で行っていたのですが、これが結構スリルがあって面白いんですよ。用意するのは球状の発泡スチロールです。これは野球用品でも販売しているのでしょうかね?ちょっと調べてみないとわかりませんが。
というのも私が使っていたのは手芸店で購入したものだったからですw
人形の頭部を作るときなんかに使うんだと思うんですが何種類かサイズや表面の装飾がありました。この球のサイズや表面のデザインがポイントで大きかったり小さかったり、つるつるだったりでこぼこだったりするだけでとんでもない変化球が投げられたりもします。
やり方は投手と打者で行う手打ち野球です。ナックルのように指を立てて弾くようになげると物凄い落下したり、バックピンをかけると強烈に伸びたりします。ついついエキサイトしてケンカになるというのがオチだったのですがw
それでこの遊びに軸キャッチのやり方で手打ちを行えば、「軸足の使い方」と「身の寄せ方」がかなり鍛えられるんですよ。
軸足の創り方で説明しているやり方で、しっかり股関節に乗せる。構える。軸足の踵で地面を強く踏み込んで体軸で打つようなイメージで手に当てる。
この軸足の踵を踏み込むというのがポイント。これだけ意識させてあとはもう楽しんでください。小学生だから変化球はダメ?そんなの関係ねぇって感じで打ち取りにいってくださいwそいう本気の状況を創り出すことで『身(軸)を寄せなきゃ打てない』というのを身体で覚えてもらうわけです。ぜひ行ってみてください。
あーそれと球軽いんで手投げだと腕が怠くなりますので気を付けてください。小手先で投げるより肩甲骨と背骨の間から腕全体の重さだけで振り下ろすように投げると良いですよ。我々大人の身体はすぐボロが出ますんでw